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東京都は北区にある“赤羽”という街を舞台に巻き起こる信じられない出来事の数々と、奇妙な街人たちとの交流を描いて今大人気のノンフィクション 漫画『東京都北区赤羽』。作者の清野とおる先生に直撃インタビュー!




―早速ですが清野先生、最近ますます赤羽という街を転がしてますねぇ。

清野とおる:転がしてないですよ。転がされてます。底が見えない街ですね、赤羽は。

―僕が先生と初めてお会いしたのはちょうど『ハラハラドキドキ』(※1)の連載を終えられた頃でしたが、『東京都北区赤羽』の大ヒットで名実共に雲の上の人になってしまって。

清野とおる:何を言ってるんですか。ヒットしてないですよ。たまたま取り上げられてもらう機会が増えて、売れてる空気は出てるかも知れないですけど、実は全然売れてないですから。

―でもワンピースより人気だっていう新聞記事を読みましたけど…。

清野とおる:赤羽駅前の1軒の本屋さんに限ってですよ。

―個人的にも読者さん的にも気になるのが先生の日常だと思うんですが。

清野とおる:日常気になりますか? 地味なもんですよ。

―どのくらいの頻度で赤羽の街に繰り出されているんですか?

清野とおる:そんなにネタ探し目的で街を歩いたりしないんですよ。

―そうなんですか!?

清野とおる:赤羽って「面白い人を探そう」とか、そういう目で探しちゃうと絶対見つからないんです。だからなるべく自然体で普通に生活を。ちょっと昼飯食いがてらネームしようかなーくらいの感覚で外に出ると、面白い物が飛び込んで来たりするんですよね。

―でもネタを探さないと漫画的にきついというのは無いんですか?

清野とおる:まだ大丈夫ですね。ひとまず7巻分くらいまでは。

―ところで『東京都北区赤羽』は先生の初期の作風からすると随分変化してますよね。

清野とおる:はい。自分なりに一般受けを少なからず意識してるので。この漫画の中で一番脚色してるのってどこだか分かりますか? 1つすっごい脚色してる所があるんですよ。

―…清野先生ですか?

清野とおる:そうです。分かりました?

―今目の前にいる清野先生はこんな穏やかな目はしてないので(笑)。

清野とおる:こんないい奴じゃないんですよ。だから唯一脚色してるのは、漫画の中の清野とおるって奴です。

―(笑)それもすごいですよね。こんなにとんでもない事だらけの“赤羽”は脚色無しなのに!先生の顔を誌面でお見せできないのは残念ですが。

清野とおる:街人バンバン出しまくっといてなんですけど、穏やかに生きたいんですよ。

―しかしそんな先生ですが、街人にはすぐに気に入られますよね?

清野とおる:みんな寂しいんですよね街の人って。時間も持て余してるし、話相手もいないし。そんな中で率先して自分の話を聞いてくれる人が現れるともう霊能力者に自縛霊が集まって来るような感じで。みんな成仏したいんですよ。楽になりたいんですよね。




“こっち”と“あっち”ってあるじゃないですか。
あくまでこっち側からあっち側を観察し続けたいんですよ。





―僕がすごく思ったのは、作品に感じるこの狂った磁場のような物を発してるのは、赤羽ではなく清野先生自身なのでは? って事なんですけど。

清野とおる:いや、赤羽はやっぱりおかしいですよ。知り合いにも赤羽のおかしさに気付いてる人はいて、しかも自分から面白い事を探すと起こってくれないっていうのも知ってます。それとは別に、先日生まれも育ちも赤羽の50歳くらいのおじさんと飲む機会があったんですけど、そういう人たちはやっぱりみんな思ってるんです。「赤羽? 変わってるよ!」って。

―そうですか。先生自身が、少しずつ作中の赤羽住人の側に染まって来ているような気がして、それも心配だったのですが。

清野とおる:それはすごく重要なポイントなんですよ。“こっち”と“あっち”ってあるじゃないですか。あくまでこっち側からあっち側を観察し続けたいんですよ。だから僕、住民票も移してなくて、北区民じゃなくて板橋区民なんですよ。ちょっと怖いのが、ペイティさん(※2)が初対面の時とか、あまり会話が成立しなかったんです。言ってる事が3割くらいしか理解出来なくて、それがあるタイミングからもうふつう〜にやりあってる自分がいるんですよね。こっちがあっちに近付いたのか、それとも逆なのか。怖い事ですよこれは。

―気付かないうちにっていう怖さがありますね。そういえば以前譲って頂いたペイティさんの歌のテープ、聴いたんですよ。

清野とおる:何が入ってました?

―なんだかすごく、抑えた感じの、ちょっとカヒミ・カリィさんみたいな、ウイスパーボイスっていうんでしょうか? それでこう「ペイペイ…ペペペペイ」みたいな。

清野とおる:囁き系の。大抵そうなんですよ。

―そうですか…。自分のが特別当たりみたいのだったらどうしようかと無駄にドキドキしてしまいました(笑)。ところで僕は先生の短編集『ガードレールと少女』に収録されているような作品も大好きで、一番好きなのは『千絵と遊ぼう』(※3)なんですが。

清野とおる:そうですか? もう、持ち込んで怒られましたよそれ。「いや別に、いいけど、これを描く事によって君は…その先に何を求めたいの?」って。

―このオチを見たら、真っ当な編集者ならそう言うかも知れませんね。

清野とおる:はい、正しいです。これはもう、別に売れてもないし、10年やって来てダメな作風だったら捨てますよ。もううんざりです。ロクな思い出がないし、もう描かないです。

―そこまで!

清野とおる:でもこれを出してくれた彩図社には感謝してます。というか、よく出しましたよね。

―ところでUNGA!は音楽誌なので、好きな音楽を伺ってもいいですか?

清野とおる:赤羽繋がりで、エレファントカシマシは相当好きですね。

―宮本さんは赤羽出身ですもんね。

清野とおる:そうですね。まぁ、だから好きって訳じゃないんですけど、普段音楽を聴く時って歌詞はどうでもいいんですよ。でもエレカシは何か入って来るんですよね。歌詞に感動して、歌にも感動してっていう。宮本さんもデビューまでは順風満帆で、でも一度沈んでいた時期ってあったらしいんですよ。そのせいか分からないですけど共感出来る所もあって。

―以前フィッシュマンズも好きとおっしゃってましたよね?

清野とおる:好きですね。フィッシュマンズと、エレカシと、女性では椎名林檎ですかね。椎名林檎はいいですね。才能だけでのし上がって来たような感じが、イカしてますね。


※1:週刊ヤングジャンプにて2003年に連載。単行本全2巻。
※2:赤羽に頻繁に出没する女性ホームレス。清野先生が“孤高の天才アーティスト”として尊敬する人物。
※3:短編集『ガードレールと少女』に収録。奇声しか発しないスナックのママ千絵と子供たちがひたすら野球をする、不条理極まりない漫画

(interview:小林博之)


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「東京都北区赤羽(5)」
2010.9.16
Bbmfマガジン
http://usurabaka.exblog.jp/


※このインタビューは、UNGA! No.132(2010.8.31発行)に掲載された物です